人を思いやること

県立赤穂高等学校長 行本 健一 

 先日、私は電車に乗っていました。隣の席は空いていました。そこへ女性が座りました。女性はしきりに口をハンカチで押さえてうつむいています。私はなぜかなと思いました。すぐにわかりました。女性はマスクを持っていなかったのです。車内を見渡すとほぼ全員がマスクをしています。そんな中でたぶん、女性は自分が「マスクをしていないのはいけないこと」と思ったのでしょう。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、私は女性の気持ちが痛いほどわかりました。

 さて、電車を利用されている方から本校生の車内の様子について苦情を受けることがあります。学校が再開されて、いつもの時間に、いつもの友達と、いつものように通学をする日常が帰ってきました。友達とのおしゃべりも弾むでしょう。マスクなしに話をすることもあるでしょう。あなた方の鞄が通路を塞いでしまっていることもあるでしょう。それもこれもあなた方にとっては、「当たり前」のことで、「悪いこと」ではないのかもしれません。でも少し立ち止まって考えて下さい。

 もしかしたら、病気を抱えていてコロナに感染してしまうと命の危険にさらされる人が同じ車内にいるかもしれません。もしかしたら、混んだ車内に強い不安感を持っている人もいるかもしれません。元気で健康なあなた方が、このような人たちに不安感を与えているとしたら、それは大変に残念なことです。思いやりとは困っている人を助けることだけではありません。困っているかもしれない人、不安を感じているかもしれない人、そんな「かもしれない人」のことを思い、自分の行動を振り返ること、そしてどんな行動がよいのか考えること、これこそが「人を思いやる」ことの始まりだと思います。

 私が電車の中で見かけた女性も、マスクをしていない自分が不安を感じている人に迷惑をかけてはいけないという思いやりがあったのだと思います。日常が少しずつ戻りつつある今だからこそ、皆さんに電車の中での立ち居振る舞いについて考えて欲しいのです。あなた方ならわかるはずです。

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