本校同窓会館武陽ゆ~かり館において、創造科学科7期生(1年)を対象に、立命館大学客員教授の薮中三十二氏(元外務事務次官)をお招きし、「日本外交の指針」というテーマで講義を行った。薮中氏とのディスカッションは今年で10年目となった。はじめに、今回のテーマを設定した生徒から授業目的と目標について伝達があった。続いて薮中氏から自己紹介を兼ねて外交官としてのエピソードやグローバル人材についてお話しいただいた。次に、休憩を挟みながら3つのテーマについて生徒とのディスカッションを行った。1つ目は「ウクライナ情勢はどのような国際秩序にインパクトを与えたのか」について講義があり、停戦案について議論した。2つ目は「台湾有事はどのような意味において日本にとっての有事か」ついて講義を受け、中国による武力統一があり得るのか、そのときはどのような場合にかについて議論した。3つ目は「現在の世界情勢下における日本外交のあり方」について、現在国会で審議されている反撃能力保有の是非と日本外交の指針について議論した。議論はグループ内で各自の考えをぶつけ合い、各班の議論に薮中氏も加わっていただき生徒と意見を交わした。4時間にわたって激論が行われ、熱気に満ちた講義となった。
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〈生徒感想〉
今回の講義で最も重要に感じたところは、たとえ国際的な軍事的緊張などの危機に陥った場合でも、物事を冷静に受け止め、中身のある議論を外交、内政問わず行うことだと思う。特に日本では先日、なんと国権の最高機関である国会で議論がされないまま、安全保障上の重要な取り決めである安保3文書が閣議決定され、授業当日のディスカッションでも文書の存在を知らない人が多くいた。そのような状況下で、冷静な議論は果たしてあったのだろうか。確かにウクライナ侵攻や台湾有事を受けて周辺国間の軍事的緊張は高まっている。しかしだからといって、すぐさまNATOの基準であるGDP2%に防衛費を増額したり、場合によっては先制攻撃も可能になる反撃能力を所持することは適切だろうか。それ以前に日本にはやらなければならないことが多くあるはずだ。例えば、授業を参照するならば少子化だ。防衛費の増額が相まって、少子化対策の財源が不足することは明らかであり、その不足分を補うのは国民負担、消費税増税や社会保険料の増額だ。そのような側面を踏まえて国民の理解を得ようと冷静な議論をしたのだろうか。また外交面においても、日本の安全保障体制はアメリカからは全面的な支持をえた。しかし周辺国はアメリカだけではない。他国の反応を考慮し、日本の安全保障体制について説明し、合意を図れるような議論はあったのか。危機を前にして政策を打ち出すのは良いことだ。しかしそれには冷静な議論が伴っていない限り、国家が間違った方向に向かう可能性はぬぐえないと感じた。
日本は通常兵器にお金をかけるよりもやるべきことがあると考えた。日本がこれ以上防衛力を強化しても中国や北朝鮮のような核保有国を前にすると無意味になる。だから日本は反撃能力保有のため将来的に核保有、核共有を行う必要がある。ただし現状は食料自給率、エネルギー自給率、少子化などの課題があり、核保有による経済制裁を食らえばひとたまりもない。そのためまずは日本の国力を高める必要がある。そのために今は防衛費にお金をかけ過ぎず他に回すべきである。また台湾有事に対し日本は中国とアメリカの間に立って解決に影響力を持つべきである。それによりアジアでの信用を得、友好な関係を築き協力していくことが経済発展に欠かせないと思う。
自分の意見を持つことがいかに重要か分かりました。外交のコアメンバーとして、準備をしていくうえで以前より新聞やテレビなどで国際関連の情報に意識的に触れていました。これだけでも、ウクライナ侵攻についての現状がどうなっているのかや台湾有事への対策として日本および周辺諸国がどのような政策を知ることができ有意義なものになったと思います。しかし、重要なのはそういった情報を踏まえて自分がどう考えるのかだと思います。今回は、ウクライナ侵攻をどのような方法で止めるのかや日本が軍事力をもつことに賛成か反対かなどで意見交流を行いました。情報をインプットするだけでなく、自分がどのような考えを持つのかを周囲に発信する、つまりこのアウトプットに意味があるのではないかと考えました。