【 第1回藤原正彦エッセーコンクール 表彰式 】

平成27年11月28日(土) 姫路文学館

標記の大会で、本校SGH課題研究を行っている、1年生の藤阪希海さんが、高校生部門で最優秀賞を受賞しました。このコンクールは、「国家の品格」の著者である藤原正彦さんが姫路文学館の館長に就任したことを記念して今年創設されたもので、今回の藤阪さんの作品は、全国から応募された160点のなかから最優秀作品として選ばれました。また同じくSGHで1年生の寺本栞那さんが優秀賞を受賞しました。以下に藤坂さんの応募作品を掲載します。

 

高校生部門 最優秀作品 「出逢い」

7組 14番 藤阪 希海

遠出をするのが好きだ。買い物でも、美術館の見学でも、ただの散歩でもいい。よく知らない街を歩きたい。その曲がり角の向こうに何があるのだろうかと、わくわくする。

大抵の高校生の女の子は、友だちと街へ繰り出すことが好きなのだと思う。そう、友だちと。私だって、嫌いな訳じゃない。ただ、この夏、「ひとり」の楽しみ方を知ってしまったのだ。

夏休みに大学の見学をしなさいと高校で言われ、何となく神戸の大学を見に行った。電車を乗り間違えないかと、終始ドキドキしていた。駅の外に出た時、真夏の太陽の眩しさに目がくらんだ。急な坂道と、都会の真ん中に佇む木々に、神戸の風を感じた。

大学見学の帰りは、バスに乗った。駅に向かうつもりで乗ったバスは、六甲のロープウェイ乗り場に到着し、終点だと告げた。運転手さん以外は、私と若い男性しかバスに乗っていなかった。頼れる人は、傍にいない。

「すみません。 このバスは、駅に向かいますか」

思い切って、その男性にバスの行き先を尋ねた。その人は一度確認してから、

「はい。このまま乗っていて大丈夫ですよ」

と教えてくれた。ほっとして、思わず笑みが浮かぶ。お礼を述べると、その男性はこの辺りは初めてですか、と私に尋ねた。大学見学に訪れたのだと伝えると、

「ああ、高校生なんですね。大学は、自分の目で見て決めた方がいいですよ」

その人は、大阪の本屋でバイトをしているのだと言っていた。1年ほど前まで、難関大学でのキャンパスライフを送っていたらしい。オーストラリアに留学に行った、とも。

「 - オーストラリアの生活が合わなくてね。頭では動こうとしても、体が動かなくなるんです。遂に倒れちゃって、病院に担ぎ込まれて。日本に帰ってきて、今は大学を辞めてアルバイトをしているんです。」

朗らかに身の上を語る、目の前の、さっき会ったばかりの人。全く知らないその人の、過去を想像する。息を詰めて話を聞き、私も自分の本当の気持ちを、感想を、その人に伝える。それは、すごく不思議な事で、でも全然嫌ではなかった。

自分が取るべき進路に迷い困っていると言った時、その人は言った。「ゆっくりでいいんですよ。僕もまた、一から探している最中です」 と。 そして、

「頑張ってください」

と手を差し出された。

固い握手を交わしてバスを降りた時、神戸の街に親しみを感じるようになっていた。

私の小さな旅は続いた。中華街の近くに多数あるという、雑貨屋さんに憧れていた。小さな雑貨屋さんの所在地は、グーグルマップで調べても分からなかった。私は、スマートフォンを鞄の一番奥にしまい、自分の足でお店を探した。それはビルの陰にあったり、地下にあったり、コンビニの4階にあったりした。かわいらしい革細工。題名も聞いたことがない古本。何に使うのかさっぱり分からない、大きな大きな布。ノーヒントでお店を探し出して、初めて目にする商品を眺める。幼い頃に楽しんだ、「宝探し」とか「海賊ごっこ」以上にわくわくすることがこの世にあるなんて、私にとって大発見だった。

お店の雰囲気を味わうことも、楽しかった。音楽のかかっている店、かかっていない店。大きな窓のある店、商品が壁を覆い尽くしている店。「いらっしゃいませ」の一言だけで、あとは楽しげなスタッフ同士の会話が聞こえてくる店。私が店内を物色する様子を見て、「古切手って、可愛いですよね」と声を掛けてきた女性店主。

「このキャラクターのグッズを、世界で一番集めている店なんです」

と胸を張る店主もいた。私は世間話を楽しむこともあれば、「こんにちは」と「ありがとうございました」しか言わないこともあった。

全てのお店で共通していたのは、店主と店の雰囲気が皆ぴったり同じで、すごく居心地が良さそうだったことだ。

無理はしなくていい。ゆるゆると、自分のペースで歩んだ先で、思いがけないものに出逢えた。話題を捻り出さずに、黙っていてもいい。でも、知らない人と喋るというのは、びっくりするくらい素敵な体験だった。近すぎる人には話せない事に対して、新たな視点からのアドバイスを貰った。出逢って5分の人のことを大好きになった。

私の予測できない旅は、この夏一番の思い出になった。自分の肌と心で感じるという体験は、こんなにも鮮烈な記憶を焼きつけていくのだと、衝撃を受けた。私の知らないことがまだまだ世界にはあふれているのだと気が付き、ぞくぞくした。

- ああ、もう一度、こんな体験がしたい

 

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