コウノトリ野生化対策懇話会
社会教育課
文化
令和4年度
日 時 令和4年12月22日(木) 15:00~16:30
場 所 兵庫県庁他 WEB会議にて実施
議事進行
1 開 会
2 出席者紹介(構成員、オブザーバー、事務局)
3 挨 拶
4 座長選出
5 協 議
6 その他
7 閉 会
懇話会出席者員(50音順)
亀田 佳代子 滋賀県立琵琶湖博物館 副館長
萱場 祐一 名古屋工業大学大学院工学研究科 教授
鈴木 仁 (公財)東京動物園協会多摩動物公園 飼育展示課長
谷口 幸雄 京都大学農学研究科 准教授
長谷川 雅美 東邦大学理学部生物学科 教授
三浦 慎悟 早稲田大学人間科学学術院 名誉教授
村田 浩一 日本大学生物資源科学部 特任教授
吉田 正人 筑波大学大学院 世界遺産学学位プログラム 教授
協議内容
(1)2022年コウノトリ野外個体の動向(大迫 エコ研究部長)
・2022年12月時点で、306羽になった。
・令和4年は、国内9府県、18市町で繁殖、営巣が認められた。
・年とともに全体の個体数は、緩やかだが指数関数的増加に転化し始めた。
・現在、巣立ち雛の98パーセントに足環を装着している。
・但馬地域を中心に、全国に小さな営巣地、局所個体群が形成されている。
(委員からのおもな意見)
・九州のペアの雛は、巣立ちまで至らなかったが、親はそのまま九州に留まっている状況か。
→九州のペアは各地を転々としている。他のペアの場合でも、秋冬になると営巣地を離れ、いわゆる越冬地へ行く行動を示している。今離れたからといって、来年、そこで営巣しないというわけではないと考えている。2月、3月の動きをモニタリングしていく。
・新しい地域の営巣地だが、電柱等も含めた人工物の巣塔が多いのか、自然の樹木が多いのか。
→今年新規の営巣地では、人工物上で営巣している。樹木での造巣は観察されていない。
・造巣した場所や地域によって、繁殖成功率や巣立ち率に差はあるのか。
→造巣した場所が、電柱か、巣塔か、樹木かによって繁殖率に差がでるかについての比較は完全には出来ていない。地域による違いについても、複数年分のデータが必要になると思うが、島根県では毎年4羽のヒナが孵っている。もしかすると、餌条件や近くに他のペアがいるかいないかなどが影響している可能性がある。
・北へ向かった個体と南へ向かった個体の、遺伝的関係はどうか。
→足環の情報を基に、一度解析したい。
・放鳥場所と、それぞれの新しい営巣地との関わりについてはどうか。
→リリースされたり、生まれたりした場所に戻って営巣するというよりも、餌条件などが良いと定着し、そこに配偶する相手が入ってくると、営巣するというパターンになっている。
(2)コウノトリ野生復帰グランドデザインについて(江崎 園長)
〔ⅰ〕グランドデザイン11年間の評価
・2010年に豊岡盆地内に存在した7巣のうち5巣では現在も繁殖が継続し、2022年には23の繁殖ペアからなる但馬地域個体群が成立した。
・但馬地域個体群がソースとなり、それ以外の場所にシンク個体群が形成されるという形で、国内メタ個体群が構築されつつあると評価している。
・県外地域での繁殖個体群の創設に向けた共同研究は、郷公園が開発したリリース・モニタリング法を用いて行っている。
・生息適地解析を行った研究では、生息適性に正の影響を及ぼす景観要素として、水田面積の比率が高いことや地形に起因する湿性度が高いことが挙げられている。また、水田と同時に、ある程度の森林が存在し水田と森林が接する境界の長さが中程度の場所で生息適性が高いことが示されている。
・今後も幅広い普及啓発活動を行うことにより、合意形成の基盤強化に取り組んでいく。
〔ⅱ〕コウノトリ野生復帰が直面する新たな課題とその克服
・かつての野生コウノトリは陸域の魚類(淡水魚と汽水魚)を主食にしていたが、現在は水田を中心とする陸域に魚類がほとんどいないので、再導入後は、昆虫をはじめとする小動物が主食になっている。このまま指数関数的に増加していくと、動物なら、ほぼなんでも食べてしまう大食漢コウノトリが、全国各地で絶滅の危機に瀕している小動物を絶滅させかねない。言い換えると、生物多様性を保全しながら、コウノトリ個体群の持続可能性を担保するという困難な壁につきあたっていることになる。この課題の解決には、河道内外の水田を含む湿地の整備、その間を餌となる魚介類が行き来できるような水域連続性が必要である。餌となる魚類を速やかに増やす必要がある。
・もうひとつの課題は感染症問題である。今年、死亡したコウノトリから高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)が検出された。郷公園では、飼育コウノトリでのHPAIの発生を防ぐため、高病原性鳥インフルエンザ対策マニュアルを策定し対策を行っている。今後も国内での発生状況に応じて対策の強化や最適化が必要である。
・飼育・野外個体群の遺伝的多様性、個体群存続可能性を常時把握しながら、島国での適正値を探ることが重要である。遺伝的多様性を高める最も効果的な方法は、国外からコウノトリを入れることだが、現在、どの国もHPAIの問題があり非常に困難である。個体群存続可能性分析の結果は、18〜28年後に10,000個体に達し,絶滅確率は1%未満となった。ただしこれは、これまでオープンケージの、飼育鳥に与えられる餌に頼って、子育てをしてきた、但馬地域でのデータが基になっている。注意深くモニタリングしていく必要があると考えている。
・地形、地質学的視点からコウノトリの営巣可能地域を明らかにしていく。但馬地域のように、野生のコウノトリが集団で営巣していたような場所が全国どこにでもあったとは考えにくい。おそらく基盤をなしているのは、地形、地質であろう。こういう地形を全国各地から探しだす努力をしている。このことにより、野生復帰の「目標設定」ができるようになる。
・成功するか定かではないが、豊岡市内において、樹木営巣への移行を実験的に試み、その後のモニタリングを行いたい。
・足環装着が困難な箇所に造巣し、かつ繁殖してしまう可能性があるが、IPPM-OWSと協力し、できる限り装着したいと考えている。
(委員からのおもな意見)
・郷公園の飼育個体群は、域内に貢献する放鳥個体を野外に放つ中心になっていると思うが、適切に世代交代がなされ、健全な個体群が維持されているか。
→維持管理している。
・環境保全型稲作においては、無農薬、低農薬などに加え、魚道の設置なども行われていると思うが、それらを全部セットで評価しないといけないのか。それとも、ある程度魚道と、農薬の使用を分けて考えられるのか。
→育む農法など、少なくとも農薬を使わないことは、誰が考えても良いことだと思う。しかし、冬期湛水などは、現在の育む農法においては必要なことだが、地球温暖化との関連においては、マイナス面の指摘もあるので、今後、県の担当部署が考えていくだろうし、郷公園もそれに協力するつもりだ。
・環境保全型稲作は、農薬の不使用や冬期湛水、魚道の設置など、いろんな要素があると思う。どの要素が一番効いてるのかというような、分析をしてほしい。
→但馬においては、冬期湛水時に牛糞を利用するなど、色々な工夫をしているようである。農道の草刈りを農薬なしでやっていることやオタマジャクシがカエルになるまで待つなどの中干延期などは良いことだが、すべてが必ずしも良いことではないと認識している。
・餌である魚を増やすには、魚の生育環境を整えるということと思うのだが、今から魚の生育環境を整えて魚が増えるスピードと、現在、指数関数的にコウノトリが増えている状況で、それで間に合うのかについての考えをお聞きしたい。
→野生復帰開始時には、多くの魚道が作られた。その後、管理がなされていない。管理を担うのは、農家であるので、農家の理解が必要だ。郷公園前の集落が、育む農法を最初に実践した集落なので、一番理解がある。こういったところから協力体制を構築していきたいと考えている。
・餌である魚を増やす取組に重点を置くのは、大事だと思う。巣も、巣塔から樹木への営巣を促し、元々の自然の状態に戻していくような取組を今から始めるのは、大事なことだと思う。魚を増やすのに、農家の協力も必要だとは思うが、河川の形状や棲息魚類の増加などは河川管理者や漁業関係の協力も必要だと思う。農家以外の協力体制は、今具体的にあるのか。
→内水面漁業との関係に関しては、郷公園の教員が、長年苦労をして、何とか関係を保っている状態である。
・豊岡盆地でコウノトリのなわばりの配置と共に、なわばりではない箇所に、栄養段階の下位の動物達が、豊かな生物多様性を保持することを可能にするような研究を是非ともお願いしたい。
→魚を例に挙げると、魚の逃げ場所を確保しながら魚を増やしていかなくてはならない。このことは、県の土木や国交省にも是非とも協力していただきたいので、今後、要請していく。
・いろんな試みをしてみるのは、決して悪いことではないが、コウノトリは、研究面を離れシンボル的存在になっているので、住民や行政、地方自治体との合意形成は重要だと思う。農業者との共同が必要であれば、話し合いをかなり綿密にしないと、研究と住民との間の亀裂が大きくなることも考えられるので、注意する必要がある。
・日本では、氾濫原環境がとても大事であり、多様性を維持する上で大切な空間である。河川管理者にとって、コウノトリは非常に分かりやすいシンボル的な存在であるので、コウノトリの生息環境を整えるという視点から、こういうふうに河川整備をするといいんだよ、というメッセージが提案されると、コウノトリだけではなくて、河道内の氾濫原環境を保全するという意味からも、非常に良い方向にいくのではないかと思っている。
・今までやってきた育む農法など、魚類以外のところも引き続きやっていくと聞いたので、多方面で、餌場の環境を充実していき、コウノトリが悪者にならずに、コウノトリが増えていけるような環境を整備していかなければならないと思う。
・全体のグランドデザインについては、日本のメタ個体群の構造をこうやって作っていくという、壮大な計画だったが、それはまだまだのように思う。
・繁殖を抑制するというよりも、目標としては、増加率を指数関数的に増加させるのではなく、もう少しゆっくりとしたペースで、密度効果も踏まえながら、これから個体群の動向を、十分よくモニタリングしていくことが大切だと思う。
(3)その他
・佐渡では野生化のトキが、およそ500羽を超えた状況だが、分散という意味では、まだ佐渡にしか生息していない。今後、分散に向けコウノトリの事例を参考にしていきたい。
・エコロジカルネットワーク形成に向け、関係各所が情報提供、情報共有しながら進めていくことが重要である。