外国人児童生徒にかかわる教育指針(平成12年8月)
人権教育課
学校教育
外国人児童生徒にかかわる教育指針
平成12年8月
兵庫県教育委員会
世界は今、文化、経済をはじめあらゆる分野の活動が地球規模で展開され、国境を越えた相互依存の様相を強めている。このようなグローバル化が進行する中で、あらゆる国の人々と共生を目指す国際性豊かな人間の育成が求められている。
現在、兵庫県内に在住する外国人は、約10万人に及んでおり、そのうち6万人あまりが在日韓国・朝鮮人である。また近年は、就労や留学目的等で在住するアジアや中南米諸国の人々が急激に増加してきている。
兵庫県では、平成6年(1994年)に「地域国際化推進基本指針」を、さらに平成11年(1999年)には、阪神・淡路大震災における国籍や民族を超えた助け合いの体験などを通して得た教訓も踏まえ、基本指針の「フォローアップ方策」を策定し、異なる文化や生活習慣、価値観に対する理解や寛容の心を育む「こころの国際化」に努めている。
兵庫県教育委員会では、人権尊重を基盤に国際的視野を持ち、異文化を理解し尊重するとともに、異なる文化を持った人々と共に生きていく態度を育む取組を進めてきた。
平成10年(1998年)3月には「人権教育基本方針」を策定し、すべての人の基本的人権を尊重し、人権という普遍的文化を構築することを目標に、人権教育を推進している。
しかしながら、異質なものを排除しがちな日本の社会にあって、外国人に対して、歴史的経緯や社会的背景などにより生み出された偏見や差別が存在している。このような現状において、外国人児童生徒の中には、本名を名乗りにくいなど、民族的自覚や誇りの確立を阻害されている状況がみられたり、また、日本語理解が不十分なことや文化、生活習慣の違いなどが起因となって、疎外感を感じたり、いじめを受けるなど、諸問題が生じてきている。
そこで、多文化共生の視点に立って、外国人児童生徒の自己実現を図ることを支援するとともに、すべての児童生徒が互いを尊重し合い、多様な文化的背景をもつ外国人児童生徒と豊かに共生する真の国際化に向け、「人権教育基本方針」に基づき、外国人児童生徒の人権にかかわる課題の解決に取り組むため、指針を策定する。
<基本的な考え方>
1 外国人児童生徒が民族的自覚と誇りを持ち、自己実現を図ることができるよう支援する。
同質にとらわれがちな日本の社会において、外国人児童生徒が母国の文化や言語にふれる機会が少ないことなどにより、自己を肯定的に受け止めにくい状況がみられる。とりわけ在日韓国・朝鮮人児童生徒の中には、今なお残存している民族的偏見や差別などが要因となって、学校や日常生活において本名を名乗るのが難しい現状がある。また、就業については改善されつつあるものの厳しい実態があり、外国人児童生徒が将来の進路に展望を持ちにくい状況もみられる。
このような状況を踏まえ、あらゆる教育活動の中で、外国人児童生徒の自尊感情の形成を促すとともに、課外活動などを通して、母国の文化や言語にふれる学習機会の提供に努めることが大切である。
また、日本語理解が不十分な外国人児童生徒においては、日本語指導をはじめ学力の向上を図る取組など、外国人児童生徒に対する学習指導や進路指導を充実させるとともに、母語による学習機会を提供するなど、自己実現が図れるよう支援することが必要である。
2 すべての児童生徒に、外国人に対する偏見や差別の不当性についての認識を深めさせるとともに、あらゆる偏見や差別をなくしていこうとする意欲や態度を身につけさせる。
人権尊重の国際的な世論の高まりや日本の人権関係諸条約の批准を背景として、指紋押なつ制度が全廃されるなど、外国人の人権にかかる現状は徐々に改善されつつある。しかし、在日韓国・朝鮮人をはじめ日本に在住する中国など東アジア諸国の人々に対する民族的偏見や差別がなお残存しており、近年、新たに在住するようになった中南米諸国等の人々に対する偏見や差別が生じてきている。
これらの課題解決のため、児童生徒の発達段階を踏まえながら、在日韓国・朝鮮人や日本に在住する中国など東アジア諸国の人々にかかわる歴史的経緯や社会的背景をはじめ、外国人についての認識を深めさせることが必要である。また、外国人にかかわる人権問題についての学習や人権関係国際文書等に示されている人権の概念及び価値についての学習を通して、偏見や差別の不当性についての認識を深めさせ、差別を積極的になくしていこうとする意欲や態度を身につけさせることが重要である。
3 共生の心を育成することを目指し、すべての児童生徒に多様な文化を持った人々と共に生きていくための資質や技能を身につけさせる。
国籍や民族の異なる外国人児童生徒が多く在籍している現状から、学校においては、国籍や民族の「違い」を「違い」として認め合い、異なる文化や生活習慣、価値観を受容し尊重する共生の心を育成することが求められている。
そのため、多様な文化を持つ人々相互の人権尊重を基盤に、異なる文化や生活習慣、価値観に対する理解を図り、すべての児童生徒に自国の文化や歴史を尊重する態度を培うとともに、自分の考えを適切に表現し、立場や意見の異なる人々と協力しながら、多様な文化を持った人々と共に生きていく異文化間コミュニケーション能力を育成するなど、外国人と豊かに共生していくための資質や技能を身につけさせることが重要である。
4 外国人児童生徒にかかわる教育指導の充実に向け、教職員一人一人が人権意識の高揚に努めるとともに、実践的指導力の向上を図るための研修体制を確立する。
教職員は、外国人児童生徒一人一人の人権を大切にした教育指導の充実を図るために、外国人児童生徒にかかわる教育の重要性についての認識を深めることが肝要である。また、外国人児童生徒個々の状況の把握に努め、母国の文化、教育制度、民族の歴史等についての認識を深めることを通して、外国人児童生徒の理解に努めるとともに、自己実現を阻んでいる要因や教育課題を明らかにし、共通理解を図ることが重要である。
そのためにも、教職員一人一人が、指導者自身の人権意識が学習者にとっての重要な学習環境であるという認識に立って、自己研鑽と人権意識の高揚に努める必要がある。また、学校においては、教材の開発や指導方法の研究に取り組むなど、実践的指導力の向上を図るための研修体制を確立することが重要である。