第44回卒業証書授与式

式辞

 校庭を吹く風に春の兆しを感じる今日の佳き日に、兵庫県立伊丹西高等学校第四十四回卒業証書授与式を、かくも盛大に挙行できますことを大変うれしく思います。

 本日はご多忙にも関わりませず、多くのご来賓の皆様にご臨席を賜り、また、多くの保護者の皆様にご参列いただきましたこと、高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 さて、卒業生の皆さん。改めまして、ご卒業おめでとうございます。本校で過ごした三年間はいかがでしたか。三年前の令和四年はまだ新型コロナウィルスが感染拡大中で、様々な制約の中、高校生活を始めた皆さんの心中は「新鮮さ」と幾ばくかの「不安」がない交ぜになっていたことと思います。その気持ちは三年間の学びを終え、どのように変化しましたか。皆さんの心は今、どんな「希望」に形を変えていますか。

 三年前ヒットした曲に、バックナンバーの「水平線」という曲があります。コロナの影響でインターハイが中止になった年、自身も学生時代に陸上競技に情熱を捧げていた清水依与吏さんが、目標を失った若者たちのために制作したのが「水平線」という楽曲でした。

 その歌詞に「正しさを別の正しさでなくす悲しみ」という言葉があります。高校生にとっての、「一つの目標に向かって友人たちと協力し合い、努力する」という「正しさ」と、国を挙げて、「感染症の脅威に対して “三密”に取り組む」という「正しさ」。「正しさ」が塗り替えられたとき、皆さんは何を感じましたか。「希望が崩れ落ちたとき、そのかけらを見て、誰かがきれいという」その心のへただたりに皆さんは何を思いますか。

 皆さんの目の前にある未来は、以前のように、ある程度の筋書きが示されていた未来とは異なります。持続可能性を探り、多様性を認め、グローバルに物事捉える時代にあって、皆さんは真偽不明の情報の洪水から、「正しさ」を見つけ出さなければなりません。様々な価値観の中、最適な「解」を見いださなければなりません。そんなときに必要になるのは、「水平線」の歌詞にもあるように「人が痛みを感じたときには自分のことのように思える」共感の力。すなわち「エンパシー」ではないかと私は考えています。

 もとより未来は、その字が示すとおり「まだ来ていない」、すなわち「何も決まっていない」世界です。次代を担う皆さんが本校の校訓さながら、「克己」し、「協調」し、「創造」していくものです。自分の良さを最大限に発揮し、未来を歩んでもらいたいと、強く思います。

 私事ではありますが、本日巣立ちゆく卒業生の中に、元同僚で、病のために亡くなった友人の息子がおります。きっと彼も本日ご参列の保護者の皆様と同じように、お子様の晴れやかな勇姿に目を細めていることと思います。本当におめでとう。

 最後に、卒業生への餞に、宮沢賢治の「稲作挿話」という詩の一節を贈り、結びといたします。

これからの本当の勉強はねえ

テニスをしながら商売の先生から

義理で教はることでないんだ

きみのやうにさ

吹雪やわづかの仕事のひまで

泣きながら

からだに刻んで行く勉強が

まもなくぐんぐん強い芽を噴いて

どこまでのびるかわからない

それがこれからのあたらしい学問のはじまりなんだ

ではさやうなら

  ……雲からも風からも

    透明な力が

    そのこどもに

    うつれ……

令和七年二月二十八日

兵庫県立伊丹西高等学校

  校長 愛川 弘市