大学生の身としては、就職活動を意識して「得意なことは?」「苦手なことは?」と考えることも多い近頃。なんなら大学入試の時も嫌というほど自己分析をしてきた。「苦手なことを得意なこととつなげましょう」なんて、嘘をついているみたいで罪悪感しか湧いてこない。本当の自分はこんな真面目そうな人間じゃないのにと思いながら面接官の前で取り繕っている。私の「価値」はどこにあるのだろう。
そんな折、ふと目に入った「価値の手直し」展に心惹かれて足を運んでみた。モノの価値とはどこにあるのか、変化の大きい時代だからこそ価値の本質を誰かと語ってみたい。その思いで、この展覧会を企画した衛藤研究員に話を聞いてみた。 (Written by A.S)
この展覧会の主題、「アップサイクル」という言葉には創造的再利用という訳があるらしい。アップサイクルはリサイクルとは違い、新しい価値を付与して再生利用する。価値を新しく見出し活用することは難しいだろう。特に将来に関わることだと視野も狭くなりがちだ。欠点を美点として捉えるにも限度があるのではないか、そう思うことも多い。そんな私に衛藤さんは教えてくれた。
「例えば着火剤。この着火剤は元々布製品を作る工場で生まれたホコリである。“燃えやすい“という特性は布を扱う工場にとって致命的ですよね。でも着火剤として考えてみると、これ以上ない性質です。人の性格も同じように捉えられるんじゃないでしょうか」と衛藤さん。「モノは言い様」とはよく言ったものである。自分よりも優れた人がいるじゃない、と考えることが多かったが、見方を変えることを意識できていなかったのかも、と思った。
「今治の着火剤」 「燃えやすい」欠点を利点に
隣の家の芝は青く、花は赤く、ご飯は美味しい。つまりは友人の方が勉強できそうに見えるし、ノートは綺麗だし、成績も上な気がしてくるが、向こうからもそう見えているらしい。自分ではできていないことを褒められても嬉しくないのだが、「謙遜しないで」といわれると複雑な気分になる。しかし、私自身も同じように友人に接している。「そんなことないよ」はよく言ってしまうセリフの一つだ。私ではない彼女たちからはどんな世界が見えているのだろうか。
「モノの性質・要素を分解して見ることが重要」と衛藤さん。個人や個性というものを重視する
図 3 襤褸 寒さをしのぐためだけだった古布がオシャレとして受け入れられることが多い中、「世界全体、時代全体で見たら現代の日本に生きているというだけで十分な個性があるんですよ」。私には目から鱗の考え方だった。個性には価値があるとされる。ならば、それぞれに違う価値が存在し、価値の見方にもそれぞれの価値が宿っているのではないか。少なくとも、私は衛藤さんのモノの見方に価値を感じたのだ。
襤褸 寒さをしのぐためだけだった古布がオシャレとして受け入れられる
「創造的再利用」って難しそう。創造なんてできないし、美術も創作も苦手である。けれど幼いころ、なんなら今も、私はお菓子の空き箱、変な形のゴミ、梱包材に価値を見出していた。主に遊ぶためだったのだが、これも創造的再利用と言っていいのだろうか。ちょっと怒られそうである。
この企画展の裏テーマ「豊かさを問い直す」という言葉は日常の中に存在する価値を強く意識させる。衛藤さんは「価値とは手直しされるもの」であり、「時代を反映させるもの」であると語る。アップサイクルという言葉で注目され始めたものたちは決して新しいものではなく、また見つけられただけなのだ。どんどん変化する世界についていけなくなることも多いけれど、その価値は失われたわけではない。私たちの見方が変化しただけなのだ。難しいことだが、自分の見方を広げることで新しい価値をも生み出すことができる。
呼び継ぎの器 わざと壊して継ぎの美しさを楽しむ伝統的技法
この記事はだいぶ短くなったものの実際には2時間近く語っていた。途中で経済やAI、哲学、貨幣などなど、語り切れないほどである。衛藤さんとどんな話をしていても新しいものの見方を伝えようという思いが見えた。改めて、アップサイクルには衛藤さんの伝えたいことのきっかけや考えが詰まっていたのだなと思うばかりである。「視点を変える」という言葉はよく聞くだろうが、実践することは難しい。この展覧会でその一歩を踏み出せた気がした。
アップサイクルの形式 「身近なものに新しい視点を」