2024年7月中旬。私は母と「人と自然の博物館(通称:ひとはく)」を訪れました。同施設を訪れるのは私が小学校高学年の時以来ですから、実に10年ぶりです。同施設に面した商業施設は、いつの間にかダイエーからイオンへと変わっていて、流れた時の長さが身にしみて感じられました。とりわけ、訪問から半年以上経つ今でも、一階にある酒屋さんが強く印象に残っています。10年ほど前、現在の酒屋さんの場所には駄菓子屋さんがあったと私は記憶しています。駄菓子屋さんから酒屋さんへ。その変化は、まるでこの10年の間に成人し、お酒が飲めるようになった私に重なるような気がしてなりませんでした。そして、これから訪れるひとはくにも「この10年で変わったところがあるのかもしれない」と思い、私は期待に胸を弾ませずにはいられませんでした。(Written by カヌレ)
2022年10月末に開館した建物「コレクショナリウム」です。スタイリッシュな外観が目を引きます。
自動ドアから外に出れば、クチナシの生垣に接した建物が視界に飛び込んできます。奥に見えるコンクリートの建物とは異なる、直線的で黒い建物。見慣れないそれに、私の口からは思わず「うわあ」と気の抜けた声が漏れました。それもそのはず。「コレクショナリウム」と呼ばれるこの建物は、2022年10月末に開館したばかりなのです。中に入れば、明るいフローリングの大きな部屋に、鳥の剥製や蝶・蛾の標本がずらりと並べられています。スズメやメジロといった身近な野鳥から、中南米に生息する美しいモルフォチョウまで。公開エリアだけでもうかがえる種類の豊富さと圧倒的な収蔵数を前にして、私の目はきょろきょろと忙しなく動いていたことと思います。それはもちろん、空間いっぱいの収蔵品を見ていたからではありますが、それと同時に、今回の訪問にあたって自ら課したミッションを思い出して動揺したからでもあります。
/ミッション――それは「昔と同じ場所で同じポーズをとり、写真を撮る」こと。10年ぶりのひとはく訪問に際して、私は両親が撮影したひとはくの写真を見返しました。そして、モルフォチョウの標本とともに写る自分の写真を見て「これはいいネタになるかも」と思ったのです。2008年、なんと17年前に撮影されたその写真の中で、標本の前に立つ私は両手を広げていました。蝶の真似か、自らスケールになって大きさを伝えているのか。残念ながら記憶にないため真意は分かりません。ただ、コレクショナリウムの標本を前にして一つ分かったことがあります。それは、「間もなく22歳になる人間がするには恥ずかしすぎる」ということです。出発前は「あはは、めっちゃいいじゃん」などと浮かれていたにもかかわらず。実際に現地に行かないと分からないこともあるのだと、22歳にして学びました。
しかし、自分ならではのネタを逃すわけにはいきません。私はコレクショナリウムを出て受付を済ませると、撮影場所である本館3階の標本コーナーへ向かいました。そして、少々渋った後に、無事ミッション・コンプリート。10年で変わったところ、それはコレクショナリウム、私の羞恥心、標本のレイアウトでした。
17年前の私。蝶の真似か、自らスケールになって大きさを伝えているのか……もう誰にもわかりません。
恥ずかしくて、シャッター音が響いた瞬間に逃亡してしまいました。よく見ると17年前と手のひらの向きが逆ですね。微妙な再現となってしまいました。
10年という時間は、ヒトと街を変えるには十分すぎるものだと思います。だからこそ、どれだけ時間を経ても残り続ける「想い」を大切にしたい。私は今回のひとはく訪問でそう強く感じました。
標本コーナーで撮影を終えて、本館3階の展示を見て回っていた時のことです。新種の恐竜の化石を眺めていた私は、母がある展示コーナーで佇んでいることに気付きました。横倒しの道路や崩壊した家屋、鮮烈な炎の色、そこから立ち上る黒い煙……コーナーに置かれたテレビが、1995年1月17日を記録した映像を流しています。母はそのテレビの前に立ち、小さな画面を見つめていました。
神戸市出身の母は、ちょうど現在の私と同じ歳の頃に震災を経験しました。沢山の本がベッド脇の棚から落ち、机から落下したミシンは部品が破損。母自身も、激しい横揺れにベッドの上をゴロゴロ転がされたそうです。あの日から30年。一人静かに佇む母の背中を見て、何年経っても変わらないものもあるのだと思いました。
今回、10年ぶりにひとはくを訪問したことで、博物館は改めて面白い場所だと感じました。新しい発見や研究の蓄積にともない変化する一方で、後世へと伝えていかなくてはならないことは変化させない。過去と現在の入り交じる博物館が、いつまでも未来について考えられる、人々に愛される場所であってほしいと私は思います。
17年前の母と私。母のお腹には妹がいます。彼女も今や高校生!
今回も撮影してみました。ほとんどの展示物は変わっていませんが、変わらないことも大事なことだと思いました。