中原中也の詩に「一つのメルヘン」という作品がある。教科書にも掲載されていて、私も授業で取り扱ったことがある。平易な言葉で書かれてはいるが内容は非常に難解で、生徒に鑑賞させるのに苦慮した覚えがある。
中原中也についての様々な文章を読む中で、中也が宮沢賢治の影響を強く受けているということを知った。賢治が生前自費出版した詩集「春と修羅」が古本屋で二束三文で売られているのを見つけ、中也が購入したのがきっかけだという。中也はその後も数冊購入しては詩友にプレゼントしていたらしい。
「一つのメルヘン」が発表されたのは、賢治の死後、高村光太郎によって編まれた「宮沢賢治全集」の発行後。「一つのメルヘン」は、おそらく、そこに掲載された童話「銀河鉄道の夜」に触発された作品ではないかと思う。そう考えると、この詩は「天の川」すなわち「銀河」に思いをはせて詠まれたものだと想像できる。だとすれば、突然現れ姿を消す「蝶」の存在は何か。涸れた川床に流れ始める「水」は何を意味するのか。
文学作品は、その世界を読者が自由に浮遊できるところに芸術性が存在する。
秋の夜、久しぶりに星空を眺めて、宇宙を旅してみたいと思う。
