友人と話をしていたときのこと。「最近、あのとき別の選択をしていたら、人生、変わってたんじゃないかと、よく考えるんや」と、彼は寂しそうにつぶやいた。「愛川はそんなことない?」と尋ねられ、「ないなあ、最近幸せやからなあ」と冗談めかして応えた。

 私も若い頃は、「あのときこうしていたら…」と考えることが多々あった。大学に進学したときも、卒業の時も、京都の私学に勤めていたときも、辞めたときも、そして、兵庫県の教員に採用されたときも。人生の節目節目で、「あのとき別の道を選んでいたら…」と常に思っていた。

 そんな折々に父は「なることを喜べ」と私に言った。「結果」受け入れて、喜んでなすべきことをせよ、と。なんだか負け犬の言い訳みたいで、その頃はとうてい共感できなかった。

 人生は偶然の繰り返しだ。けれどもその先にあるのは必然。長く生きているとそう思うことがある。この人と出会うべくして出会い、私は今ここにいる。そんな実感を持つことがある。

「過去は誰にも変えられない。未来は自分にしか変えられない」。父の言葉の意味が今ならわかる気がする。そして、その理解の先に「幸せ」があるのだと思う。