卒業式式辞

校長 西 茂樹

 「木は欣欣として以て栄ゆるに向かい、泉は涓涓として始めて流る」
 中国の詩人陶淵明は、長い冬を終え、漸く訪れた春の喜びを『帰去来辞』でこのように詠っています。自然の営みは実に確かで、校庭の木々も生命の兆しを内に抱き、窓越しに差し込む光も、時折はっと思うほどに柔らかく、春がすぐそこまで来ていることを予感させます。
 本日は、相生市長 谷口芳紀 様 相生市教育長 浅井昌平 様をはじめ、多くのご来賓の方々、保護者の皆様のご臨席を賜り、このように盛大かつ厳粛に本校第三十九回卒業証書授与式を挙行できますことに心から感謝いたしますとともに厚くお礼申し上げます。
 三十九回生の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。ただ今卒業証書を授与いたしました二三五名の皆さんに、本校教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。
 皆さんにとって本校三年間の一番の思い出は何でしょうか。勉学、部活動、学校行事、相高坂、中には学年通信「翔る」を挙げる人もいるでしょう。この「翔る」には三年間の本校での学びを礎に、将来地域のリーダー、日本のリーダー、世界のリーダーとして大きく羽ばたいてほしいという岸本由樹学年主任を始め、学年団の先生方の熱い思いが込められています。その期待に応えるかのように、皆さんは濃密で充実した時間を過ごし、大きく逞しく成長しました。「人は変わる」「まだまだ伸びる」を合い言葉に、「チーム三十九回生」として何事にも妥協を許さず一丸となって全力で取り組んできた皆さんの溌剌としてまばゆいばかりに輝いたその姿は、確と私の目に焼き付いています。
さて、皆さんが生き抜くこれからの時代には、どのような社会が待ち受けているのでしょうか。
 人生八十年時代と言われる中で、皆さんが高校生活を送られたわずか三年間を例に挙げても、入学の年には、「安心してください」というフレーズが流行語になるほどに、テロ事件などによる社会不安、マンション傾斜問題などによる生活不安が襲ってきました。翌年には、イギリスのEU離脱や、トランプ氏のアメリカ大統領就任など、既成の枠組みに対する民衆の危機感や不安が一つの形となり、「トランプ現象」とも言われてポピュリズム、いわゆる大衆迎合主義が台頭しました。そして昨年は、世界情勢が一層不安定さを増す中で、国内でも数々の疑惑や不祥事が相次ぎました。
 加えて、世界各地で頻発する甚大な自然災害、地球規模で進行している深刻な環境問題など、時代は必ずしも明るいものばかりではなく、寧ろ、流動的で先の読めない不透明感が漂い、多くの課題が山積しています。これらの難題は、私達一人の努力では如何ともしがたく、人と人、国と国が相互に助け合い、励まし合い、支え合っていかなければ解決できないものばかりです。これからは、グローバルスタンダードを基盤とした意思決定が益々重要になってきます。それぞれの価値観や文化、生活習慣の違いなどを超えて、互いを認め合いながら共生していくための社会づくり、システムづくりが不可欠になってきます。
 こうした状況下にあって、私が日頃感じていることの中から、特に三つのことをお願いし、皆さんへの餞別にしたいと思います。
  一点目は、生きる上でのしっかりとした目標と強い意志を持ち続けてほしいということです。
「諦めない力と忍耐力があれば、どんな困難をも打ち破り、どんな障害物をも消し去るほどの魔法のような力が湧いてくる」と言ったのは、アメリカ第六代大統領ジョン・クインシー・アダムズです。目標を達成するための絶対条件は諦めない強い意志だ、と言いたいのだと思います。やり遂げたい目標を持っている人には、必ずと言っていいほど、次々と苦難が立ちはだかるものです。そんな時こそ、具体的な行動目標を設定し、自分の座標軸をしっかりと見据え、不退転の意志を持って、挫けず倦(う)まず努力を続けてほしいと思います。「今を生きる」とは強い意志を持つこと、決して尽きることのない燃えたぎるような情熱を忘れないことだと肝に銘じてください。
 二点目は、挑戦する勇気を持ち続けてほしいということです。
人には無限の可能性と創造力があると言われます。それを伸ばすには、無論、知識や経験、環境などさまざまな条件が必要ですが、何よりその大前提となるのは、行動力です。遺伝子を使った医療技術の実用化が期待される中で、妻であり、母でありながらも、研究に勤しみ、働く女性という環境に身を置いて、世界初の遺伝子解析用DNAコンピュータの試作機を完成させた唐木幸子さんは、その著書の中で、「やりたいことが明確ならば、本気になって挑戦する勇気さえあれば、できない環境ぐらい、必ず打破できる」と語っています。挑戦する勇気を持ち続け、自らの道を自らの力で切り拓いていってください。
 三点目は、感謝の気持ちを持ち続けてほしいということです。
時に厳しく諭し、時に温かく見守ってくださった先生方、三年間ここ相生高校で同じ時空を共有し、悲しみは半分に、喜びは何倍にもしてくれたかけがえのない三十九回生の仲間、いつも大きな愛情で包み、陰から支え応援してくださった家族、そして数々のご支援をいただいたPTA、同窓会、相生市を始めとする地域の方々。皆さんが今日、卒業の日を迎えることができたのは、もちろん、皆さんの弛まぬ努力によるのですが、その裏にはこうした多くの方々の励ましやご支援があったからこそです。「感謝の気持ちは幸福の安全弁」と言ったのは松下幸之助氏ですが、感謝の気持ちを忘れることなく、心豊かに生きてください。
 保護者の皆様に、この場を借りまして一言申し上げます。皆様の大切なお子様をお預かりし、教職員一丸となって全力で取り組んで参りましたが、期待に応えられたのかどうか、忸怩たる思いもありますが、私どもの教育方針をご理解いただき、ご協力賜りましたことに心からお礼申し上げます。また、お子様を大切にはぐくみ育ててこられた皆様方には、この十八年間、言葉には尽くせないほどのご苦労があったことと推察いたしますが、今日この日を迎えられ、心からお慶びとお祝いを申し上げます。今後とも引き続き、本校に対して変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
 最後になりましたが、縁あってこの相生高校の学び舎に集い、ともにはぐくんだ校訓「自律・創造・敬愛」の精神。この精神を深く胸に刻んで、卒業生の皆さん一人ひとりの活躍が母校の喜びや励みになることを、そして三十九回生全員の力になることを決して忘れず、命を大切に、自信と誇りをもって、悔いのないすばらしい人生を歩んでいかれることを祈念しています。
 行くなれと とどまる我と 春二つ
 卒業生の皆さんに限りない惜別の思いを残しつつ、その洋々たる前途祝して、式辞といたします。