第四十回卒業式式辞

 「岩注ぐ 清水も春の 声立てて うちや出でつる 谷の早蕨」
 かの有名な歌人、藤原定家は、長い冬を終え、漸く訪れた春の喜びをこのように詠っています。自然の営みは実に確かで、相高坂の木々も生命の兆しを内に抱き、窓越しに差し込む光も、日増しに柔らかさを増して、春の訪れが近いことを予感させます。
 本日は、相生市長 谷口芳紀様、相生市教育長 浅井昌平様 同窓会長 芦谷得夫様をはじめ、多くのご来賓の方々、保護者の皆様のご臨席を賜り、このように盛大かつ厳粛に本校第四十回卒業証書授与式を挙行できますことに心から感謝いたしますとともに厚くお礼申し上げます。
 四十回生の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。ただ今卒業証書を授与いたしました一九〇名の皆さんに、本校教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。
 教育においては、「不易流行」ということが言われます。皆さんは入学以来、本校の「不易」の部分、人づくりの基盤をなす質実剛健の気風のもと、進路実現を目指して飽くなき濃密で充実した時間を過ごしてきました。一方で、「流行」の部分、豊かな人間性と、グローバル化時代に求められる主体性や協働性などを育むさまざまな教育活動に溌剌として情熱を注いできました。そうした皆さんのひたむきで真摯な、そして学年通信のタイトルが象徴する「躍動」する姿は、潮海邦彦学年主任の「めらめらと燃える」思いの具現化そのものであり、その思いはそれぞれの未来を切り拓く基盤として皆さん一人一人の心の中に息衝き、大きな支えとなることを強く確信しています。
 さて、近年、「世界はVUCA(ブーカ)ワールドとなった」と言われます。「VUCA」と書いて「ブーカ」と読みます。Volatility(ボラティリティ)=変動性、Uncertainty(アンサーティンティ)=不確実性、Complexity(コンプレクシティ)=複雑性、Ambiguity(アンビギュイティ)=曖昧性、これらの頭文字を並べた造語が「VUCA」=「ブーカ」です。これらの言葉が象徴するかのように、イギリスのEU離脱や、トランプ氏のアメリカ大統領就任など、既成の枠組みに対する民衆の危機感や不安が一つの形となってポピュリズムが台頭し、国際政治は流動化を増すばかりです。また、社会は「狩猟」「農耕」「工業」「情報」に続く、第5世代の「ソサエティー5.0」と言われる技術革新の時代に向かっています。それが証拠に、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、これらの頭文字を並べた「GAFA」=「ガーファ」といった、数十年前には予想だにしなかった新たな職域を持つ企業が世界中を席巻しています。一方で、地球温暖化を背景とする甚大なメガ災害は、毎年規模を増大させながら次々と容赦なく襲ってきます。
 このように、先を予測することが非常に困難で、不安定・不確実・不透明な状況にあっても、自分の拠って立つ基軸を見失うことなく、しっかりと地に足を据えて生き抜いてほしいと思います。その意味において、今後特に大切にしてほしい三つの基軸を皆さんに伝えて餞別にしたいと思います。
 一点目は、大きな志を持ち続けてほしいということです。
 苦境に陥った時、それに屈せず乗り越えるための気力の根幹を成すものは高い志であり、それは人間性を高めるものでもあります。幕末に活躍した吉田松陰は、「志のない人間は、魂のない人間に等しい」と言ったそうですが、志を立てることは、人として人らしく生きるための原点ともなります。松陰の言う志とは、世俗的な意味での立身出世ではなく、国家の危機を救うほどの大きなものです。松陰の時代と今とでは時代背景は大きく異なりますが、今日のように変化の著しい多様化した社会においてこそ、志の高い、展望のきいた人材が求められているのです。
 二点目は、挑戦する勇気を持ち続けてほしいということです。
 「才能はたいていの人が持っている。大切なのは、才能のあるなしではなくて、それを発揮するエネルギーがあるかどうかだ」と言ったのはアニメーション作家の宮崎駿氏です。人には無限の可能性と創造力があると言われます。それを発揮するには、無論、知識や経験、環境などさまざまな条件が必要ですが、何よりその原動力となるのは、エネルギー、つまり挑戦する勇気です。現状を受け入れてそれに甘んじてしまえば、それ以上の成長は望めません。困難に直面した時、考えに考え抜いて挑戦し続ければ必ず道は拓けます。いかなる状況に置かれようとも、挑戦する勇気を持ち続け、自らの道を自らの力で切り拓いていってください。
 三点目は、感謝の気持ちを持ち続けてほしいということです。
時に厳しく諭し、時に温かく見守ってくださった先生方、三年間ここ相高で同じ時空を共有し、喜びも悲しみもともに分かち合ったかけがえのない四十回生の仲間、いつも大きな愛情で包み、陰から支え応援してくれた家族、そして地域の方々。皆さんが今日、卒業の日を迎えることができたのは、もちろん、皆さんの弛まぬ努力によるのですが、その裏にはこうした多くの方々の励ましやご支援があったからこそです。「感謝の心が人を育て、感謝の心が自分を磨く」、これはアメリカの実業家、スティーブ・ジョブズ氏の言葉ですが、感謝の気持ちを決して忘れることなく、心豊かに生きてください。
 保護者の皆様に、この場を借りまして一言申し上げます。この三年間、本校の教育方針をご理解いただき、ご協力賜りましたことに厚くお礼申し上げます。お子様は、大きく、立派に成長され、今日この学び舎から巣立っていかれます。この十八年間、言葉には尽くせぬほどのご苦労があったこと、また春から親元を離れていくことに一抹の不安と大きな寂しさを感じておられることと推察いたしますが、今日この日を迎えられ、心からお慶びとお祝いを申し上げます。今後とも引き続き、本校に対して変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
 最後になりましたが、不思議な縁でここ相高に集い、ともに育くんだ校訓「自律・創造・敬愛」の精神。この精神を深く胸に刻んで、皆さん一人一人の「躍動」する姿が母校の喜びや励みになることを、そして四十回生全員の力になることを忘れず、命を大切に、自信と誇りをもって、悔いのないすばらしい人生を歩んでいかれることを祈念しています。
 「別れをば 山のさくらに まかせてむ とめむとめしは 花のまにまに」
 卒業生の皆さんに限りない惜別の思いを残しつつ、その洋々たる前途を祝して、式辞といたします。

平成三十一年二月二十八日  兵庫県立相生高等学校長  西 茂樹